「共」に「生」きる。 in 阿蘇

『伝言』・その一

一  あなたの言葉は、僕にはとどかない。 脩一は確かにあのとき、奈美にそう伝えた。二人が待ち合わせた喫茶店でだ。大きな杭で打ち抜いたような細工の施された赤銅色の傘から、白熱灯が光を漏らしている。両手を軽くテーブルに置き、 […]

『伝言』・その二

ニ    ピアノの正式名称は、「クラウィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」。  「弱い音から強い音まで出せるチェンバロ」という意味だ。  一七0九年に、イタリアの職人バルトメオ・クリストフォリによって発明され、その […]

『伝言』・その三

 三 「自分で決めなさい。どうするかは」  警察から宗治の死を知らせる連絡がとどき、脩一宛の遺書が残っていることがわかったとき、琴絵はまったく動じた素振りを示さず、電話口でそう告げた。 「あなたも二十六になったんだから、 […]

『伝言』・その四

四  検証で多少、荒らされた跡の残る室内ではあったが、しばらく中にいた脩一は、意外にも少し気が楽になった。 アップライトの上に積まれた切り貼りの楽譜とピアノそのものの変化は思いがけなかったが、家財道具のひとつひとつがどこ […]

『伝言』・その五

  五 「不思議ね。私たちも十ニ違うだなんて」  五歳ほど上と思った奈美は、彼より一回り多く、三十八歳だった。宗治も三十三のとき四十五歳の明子と出会っている。  マンション九階の奈美の自宅兼職場は、ときおりベランダに鳩が […]