「共」に「生」きる。 in 阿蘇

『伝言』・その三

 三 「自分で決めなさい。どうするかは」  警察から宗治の死を知らせる連絡がとどき、脩一宛の遺書が残っていることがわかったとき、琴絵はまったく動じた素振りを示さず、電話口でそう告げた。 「あなたも二十六になったんだから、 […]

『伝言』・その四

四  検証で多少、荒らされた跡の残る室内ではあったが、しばらく中にいた脩一は、意外にも少し気が楽になった。 アップライトの上に積まれた切り貼りの楽譜とピアノそのものの変化は思いがけなかったが、家財道具のひとつひとつがどこ […]

『伝言』・その五

  五 「不思議ね。私たちも十ニ違うだなんて」  五歳ほど上と思った奈美は、彼より一回り多く、三十八歳だった。宗治も三十三のとき四十五歳の明子と出会っている。  マンション九階の奈美の自宅兼職場は、ときおりベランダに鳩が […]

『伝言』・その六

 六  杉ばかりと思っている土手も、一歩上がると下草がはびこり、年を越し一段と勢いが衰えたとは言え、刺のある蔦や茎の枝がズボンや靴下の布地に絡み、まとわりついてきた。それでも枯れたものは踏みしだくと心地いい音をたて折れ曲 […]

『伝言』・その七

    七  山小屋へいっしょに行ってほしい。 脩一は、メモ用紙に書いて、奈美へ渡した。 「これから……、もちろん、いいけど……どうして」  それには脩一は答えず、ただ黙って奈美の顔を凝視した。そこから小屋までスムーズに […]