「共」に「生」きる。 in 阿蘇

海神・その6

 敏雄は、頂度良い酔い醒ましとばかりにママが制止するのも聞かず車にどっかと乗ると、アクセルを吹かした。  風が熱を持った頬をなぶり、躰を弄ぶように包み込んだ。やがてどこぞの父親になる男の躰だった。風は覆うかと思えば、また […]

『塔』・その1

            塔  人が倒れていた。何人も多くが、埃をかぶったような服を着て、それは一針一針縫い目はしっかりしているのだが、よく見るとその一本一本に擦り合ったような解きが見られる。しかし、全体のステッチとしては […]

『塔』・その2

             春  路地苺は、見事なコラージュを地面との色彩の対称性の中に描き出していた。苺は、上空から見るとまるで点描されたスケッチ画の挿絵のようで、真っ赤な表面は、一粒一粒は肉眼では識別できず、もちろん区 […]

『塔』・その3

                夏  甘夏は、強く差し込む日射しの中で光沢を持ち始め、その器の中に確実に酸味と甘味を薄い袋を通して蓄えようとしているようだった。少し厚ぼったい葉が、果実を支えるようにして姿を見せ、幹から枝 […]

『塔』・その4

               秋  私たちの二回目の特集も好評の中に終わり、三回目の取材のときがやって来た。  梨は、台風の被害を直撃しており、出荷前の一番実り多いときに哀れなほど大きな粒の実が枝から振るい落とされ、地面 […]