○月○日水曜 私がささやかなこの日記を書くにあたり、その目的を明記しておきたい。 まず、その一つは、緘黙の息子が、唯一不意に洩らした言葉、それがこの島の名前であったこと。妻の突然の蒸発の後、二人で暮らしてきた八年の歳 […]
○月○日 月曜 それにしても、あの暗く、扉を持たない建物はなにか。昨日、この小屋に引っ越して始めて息子と一緒に散歩に出たのだが、あの建物を見ると息子の様子が信じられぬほどに変わってしまった。まるで今にも吸い寄せられ、 […]
…夢なのだろうか。 年老いた男が一人、街中をひょろひょろと歩いていた。 よく見るとそれは、彼の父親なのだ。 父親が痩せさらばえ、今は見る影もなく、乱れた寝間着姿で街中を、しかもデパートのような雑多する人混みをふら […]
倉庫・その1 「ごらんなさい。シロチョウでさ」 彼は、自分の今いる場所ががらくたに堆高く積もらされ、そのがらくたが艶やかに舞う、その真っ直中にいることに今さらながら気づき、愕然とした。それは […]
彼は、緘黙の息子が倉庫を見たときの行動が気になっていた。 タケダの日記には、膚を擦り寄せ、今にも吸い込まれていくような、そんな気配があったという。彼自身、倉庫に確かに奇妙な力を感じないわけではなかったが、むしろそんな […]