『具体的な風』・その一
具体的な風 子どもたちの帰った教室は、水の空いた花瓶に似て、暗い空洞に殺風景な植物が一本突き刺さっているように思えた。植物は、色の褪せた緋色の葩をもてあまし、水と縁が切れたため影をその随所 […]
『具体的な風』・そのニ
延也は、青野が好きだった。 少しいい加減で勝手なところもあったが、何か問題があったとき誰よりも親身になって心配してくれたし、それに大事なところは余計な口出しをせず、ちゃんと自分たち部員一人一人に考えさせてくれた。 […]
『具体的な風』・その三
その頃、青野は、校門を後にして木村孝の家へ向かっていた。 学校から五百メートルほど離れた公営住宅の団地の中にあり、第一棟の三階がそれだった。周辺には、ここ数年来拡がってきた宅地に民家がひしめき、古くなったその団地 […]
『具体的な風』・その四
孝は、一番奥の部屋で呼び出しブザーや扉の規則的に叩かれる音を訊いていた。それが青野であることは、それが既に訊き覚えのあるその声でわかっていた。早く出たいという気持ちもあったが、半面、顔をできるだけまだ会わせたくない […]
『具体的な風』・その五
静まりかかっていた感情がまた暴れ出し、むしゃくしゃしながら孝は、TV・ゲームのPLAYのボタンを押した。今日帰ってからもう三度目だった。 孝は、既にどのカセットもやり尽くしていて、横になっても何時間でも失敗せずゲ […]