「共」に「生」きる。 in 阿蘇

『缶詰屋』その六

 社長も、例のようにいつのまにか事務所に消え、佐伯が、いつものように工場をしばらく見学し、去ろうとしていたとき、一台のベンツが、横づけしてきた。滝川という、営業だけを専門にやっている男だ。かれは、後天的なハンディのもち主 […]

『缶詰屋』その七

   佐伯が初めて工場をたずね三年になる。  そのとき、坂本は、リムとハブのあいだにスポークをはめこむ仕事を、来る日も来る日もくりかえしていた。かれに車椅子づくりの工程をおしえたのが山田勇次で、その勇次に教えた男は、すで […]

『缶詰屋』その八

   一年ほど前、たまたま営業の一番目にこの工場へたちよったときだ。工場は、町の誘致した大手のコンピューター会社や半導体をつくる工場の隣接したとおりの一番おくで東がわを表にシャッターをかまえ、風のつよい日は換気をよくする […]

『缶詰屋』その九

 「人は、どこかで生きていくもんですよ」  佐伯は、別れぎわ缶詰屋が言ったその言葉が気になった。どうにか生きていくでなく、どこかで生きていく、その意味がどうしてもよくのみこめない。  「だれでも、死にたくないんじゃないん […]

『缶詰屋』その十

   缶詰屋では、いよいよ店舗も完成し、細かな荷物の整理を男がひとりでやっていた。  「引っ越しはだれも手伝ってはくれませんから」  缶詰屋は、そう言って、黙々と手をうごかしていた。しばらくしてから、扉が開き、手にいっぱ […]