缶詰屋 あかい夕日に照りはえた丘のひとつまた向こうの尾根に、牛たちが草をはむ姿が切り絵のように数頭列をつくっている。牛たちが、どんな顔をして草を食んでいるのかはわからない。ただその影は、みごとな輪郭 […]
あれは、二週間まえのことだ。かれが、ふたりの子どもの手をとり、それをながめながらわずかばかり立ちどまっていると、いままでひとの気配などないとおもっていた開き戸から、いきなり佐伯より三つか四つ年うえらしい男が姿を見せた。 […]
そんなかれのやめる理由はほかにあった。 それは単純に体力と言おうか、体調のことだ。 佐伯は、近ごろ、仕事のとちゅうで眼球がいたく、体がおもくなることがおおくなった。それは予期もせぬときに突然、しかも急激にやってくる […]
そんなかれが興味をひくものが、もうひとつあった。 営業で知りあった顧客の坂本という男のつとめる車椅子工場だ。そこに山田勇次という男もいた。 山田は佐伯と同じように高校を途中でやめていた。ただ佐伯が、大検でもう一度レー […]
ある水曜日のことだ。社長がめずらしくきげんがよく、「きょうは、はやくかえっていいぞ」と言ったらしい。ちょうどその日は、自分の息子の誕生日だったらしく、勇次たち三人は、残業日にあたっていたが、社長のその言葉をそのときは誠 […]