「共」に「生」きる。 in 阿蘇

『缶詰屋』その四

 そんなかれが興味をひくものが、もうひとつあった。
営業で知りあった顧客の坂本という男のつとめる車椅子工場だ。そこに山田勇次という男もいた。
 山田は佐伯と同じように高校を途中でやめていた。ただ佐伯が、大検でもう一度レールにもどったのに対し、勇次はそのまま外れた場所にいとどまり自分なりに歩いてきていた。ほかに無口な職人肌ともいえる北沢という坂本とひとつちがいの男がいて、工場といっても、工員はわずか三人の小さなものだ。 社長はかなりワンマンで、佐伯は好きになれそうにない人間だった。だが、勇次たちの見せる仕事ぶりがかれの目をひいた。
 「坂本さん、車の調子はどうです?」
 坂本は、つい三週間まえ、佐伯のところから軽自動車を買った。それまでもっていた中古の普通車が二度目の車検となり、ちょうど新型のスポーツカータイプがでたこともあって、おもいきって買いかえたのだ。一カ月目の無料点検がまぢかだったため、佐伯はそのことをわざわざ知らせにきた。
 「調子、いいですよ。快適。おおきさも独身のオレにはちょうどいいみたい。」
 「坂本、つけたしたらどうだ? あとローンがなかったら、もっと最高だって」
社長が、めずらしく工員たちといっしょに作業をしていた。いかにも皮肉たっぷりな口調だ。  
 「社長、そこまで言うんだったら、さらにそれに、給料あがったらもっといいっていわなきゃいかんでしょう」
勇次だった。彼はそんなとき、徹底して冗談とも本音ともつかぬことを言う。佐伯から見て、たまにびっくりするほどつっけんどんにきこえるときがある。社長は閉口した感じで、思わずしぶい顔になった。あとのふたりは急にだまりこんでしまった。そこは二十歳をすこしこえたばかりの若者でしかない。
社長がかなりはげしい癇癪もちで、カッと頭に血がのぼったときどうなるか、いやというほど知らされているのだ。
 工場での業務は、八時にはじまり、六時にはおわるが、つい半年まえまで、残業はまさしく社長の気分で強いられることもしばしばだった。それを勇次が抗議したそうだ。
 「とにかく、小さな工場だし、残業が必要なことはよくわかる。でも、毎日じゃ、こっちだって身がもちませんよ。せめて、ぜったい残業を入れない日を、はっきり一日だけでも決めてもらえませんか」
 けっか、木曜日がその日になった

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