先日、『派遣のウラの真実』(宝島社新書)を書かれた渡辺雅紀さんから突然、電話がありました。熊日新聞に本の書評を書かかせてもらったのですが、その後、新聞社から取材なども受け、たいへん有意義なときを得たこと、そのきっかけを下さった宮本さんにぜひ直接、お礼を述べたかったと言うのです。
30分を超す時間だったと思います。その後渡辺さんが一挙に話された内容は、ノンフィクションライターとしての取材現場の実態を生々しく伝えるに充分なものでした。
まず、この一年半、ホームレスを取材するため自らもホームレス生活を送っていたそうです。その結果、不眠、人間不信となり、病院へ受診に行ったところ鬱病と診断され、現在は投薬治療をしているとのこと。
「今のホームレスは、お金がないとやっていけないんですよ」
開口一番、言われたのがそのことでした。
「少なくとも月に2万~3万は必要ですね」
まず大きいのはコンビニが食品類を捨てなくなったこと。コンビニでは品切れを出さないため最初から数パーセントの廃棄を見込んだお弁当などの総菜類を仕入れ、賞味期限が迫れば棄てていた(その商品に関しても加盟店は本部にロヤリティを払っていました)のですが、そのことが法的に問題があるということで、セブン・イレブン本社が値引きを認めたのはまだ耳に新しいことです。しかし、その結果、破棄される弁当が激減し、ホームレスの大きな食料源がなくなったというのです。そのため、空き缶収集にしろある程度の労働に常に従事することが不可欠となり、労働に達せられない高齢者や病気がちのホームレスには餓死者も出てきているとのことでした。
また鳩山政権が3月に行った連立3党による製造業への派遣の原則禁止などを盛り込んだ労働者派遣法改正案合意と成立は、さっそく労働の現場にマイナスの影を落とし、若年の失業者が急激に増加しているという実態。派遣労働者を守る目的で改正したつもりが、抜本的経済立て直しや社会保障問題が改善されていないため、今ではかなり裏目にでているのが事実のようです。さらに、若年だけでなく、圧倒的に増えているのが女性ホームレスで、これまでなかった貧困層の広がりの分布も見て取れるとのことでした。
それにつけても、そういったことを次々と話される渡辺さんご自身も、せっかくの取材原稿を出版不況の影響でなかなか本にできないことを強く残念がっておられました。
ほとんど聞く側だった私ですが、渡辺さんの気迫とエネルギーを直に感じさせていただき日頃の勉強不足を大いに反省した次第です。ほんとうにありがとうございました。