「共」に「生」きる。 in 阿蘇

チーさんの「心の輪を広げる作文」優秀賞の作品を全文をご紹介します。

      『夢屋』が教えてくれたこと
 私は、長崎県の「対馬市」というところの出身で、阿蘇に来て、もうすぐ7年になります。
 3歳のころの病気がキッカケで、左耳の聴力を失いました。
右耳も少しずつ衰えてきていますが、筆談で会話をしてもらったり、手話や相手の口の動きをじっと見て、なんとかコミュニケーションをとりながら生活をしています。
 小学校に上がるまで「これが自分だ」と思い「人とちょっと違う」という実感はなくて、特に何事もなく暮らして、入学してからがなにかと不便だと思うことが出てきました。
 たとえば、私が小学校1年生のときです。
私たち、聴覚障害をもった人が会話をするときに必ずすることは、相手の口の動きをじっと見ます。この行動をしたとき、「何でにらむのか」とか、そうまでしてわからなかったとき、「話を聞かんでバカにしとる」とよくイジメにあい、移動教室で別の部屋に行く時にも、先生が言った場所が聞こえていなくて、何もわからないままにトイレに行って帰ってきたら、みんな先にいってしまっていて「あなたには2回も言ったはずでしょう。繰り返し説明するのが面倒だ」と言われ、話の輪に入れてもらえなかったり、行動を一緒にできなかったりすることが多かったです。
 卒業後、いくつかの場所に就職しても、やっぱり聞こえないことで、仕事内容の大事な注意が聞き取れなかったり、人と会話をして聞こえなかったとき、「あ~ごめん、もういい」とよく言われました。
 相手が困った顔をするとき、聞こえないので紙に書いてもらうのもたいへんでした。
 いつも同じことを繰り返さないといけなくて、つらい思いをしました。
 それでも、ハローワークに通い、ようやくスーパーの仕事につけました。
 けれども、そこでも作業中に後ろから近づいてきた人に気づかずぶつかり、ケガをさせてしまうことがあって、長くはつづきませんでした。
 そのあとも、阿蘇にきて就職活動をつづけてきましたが、聴覚障害者を受け入れてくれる仕事場はなかなかありませんでした。
だんだん、人が信じらず、接することが嫌になってきて、ずっと家に引きこもり状態になりました。
 そうすると精神的にもおかしくなり、薬をたくさん飲用して、ますますノイローゼ気味になったことに母が心配して、当時、妹の担任だった宮地小学校の先生が家庭訪問に来られたときに相談してくれました。
 その先生が「知り合いに『夢屋』さんという障害者の作業所をやっていらっしゃる方がいるんですが、よかったらご紹介しましょうか?」と言ってくださって、すぐに携帯で連絡を取り、夢屋さんの方3人がわざわざ家に来てくださいました。
 翌日、夢屋の中に入ったとき、スタッフや利用者の方と挨拶をかわしながら、正直な気持ち、「どうせこの人たちも、今までの人と同じで、私のことを差別の目で見るのだろうな」
と思っていました。でも、まったく違って、夢屋の人たちは、とにかく自分のことを少しでも知ってもらおうとアピールしたがる人ばかりで、私に聞こえなかったときは、口だけではなく身振り手振りで一生懸命に話しつづける人ばかりで驚きました。(中には休ませてもらえないくらい、話しかけてくれる人もいます)
 これまでは、ただ話しかけてもらうのを待って、聞こえた会話に返事をするだけでしたが、メンバーの影響で「もっと自分から積極的に話しかけていきたい」と思えるようになりました。
 ここでも会話の行き違いはたまにはあり、聞き間違えてパンの注文量が合わなかったり、手足の不自由な方に何か頼まれても聞こえなかったとき、「聞こえれば、もっと早く対処できるのに」とよく思いました。
 けれども、普通に「健常」者として生まれてきていたら、よほどのことがない限り出会えなかった場所で、いろいろなことが学べていい経験になったり、夢屋を通じて知り合った人たちが町であったときも声をかけてくださったりするので、それを考えたら聴覚障害をもって生まれたことは「マイナス」なことばかりではないと考えるようになりました。
 以前、新聞記者の方に、「あなたにとって、夢屋さんはどんな存在ですか?」と聞かれたときに、私は、「生き甲斐です」と答えました。
 毎日薬づけで、生きる気力さえなくしていた私に、命の大切さを教えてくれました。
「どんなにつらい毎日でも、いつも夢屋のみんなが本当の家族のように心から支えてくれるから生きているんです」とお話したら、その人は「夢屋さんと出会えて、ほんとうによかったですね」と言ってくださいました。
 私の気持ちが通じてとてもうれしかったです。
これからも夢屋のみんなに囲まれ、元気な笑顔でパンをつくりつづけていきたいと思います。

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