なんさまたまがった
纜ばむすんで沖ば見っと貝が山んごつ
有明海の干潟んあっちにもこっちにもあるじゃなかな
普賢岳と重なって石炭より真っ黒で
艶光りしとっとたい
ほんなこてたまがった
山がどんどん寄ってきて怖ろしゅうて
堤防ば駆け上がったつ
干潟もぬるぬるして
生き物んごつ動きだすし
大木も転がりでて
ありゃあ石炭の木ばい
有明海の神様が怒らしたつ
海ん底ばやりばなし堀ったくっとはお前か
海ば荒らしてなんばしよっか
人と争ってなんばしよっか
無明たい
有明の海ん神さんが無明にならしたったい
真っ暗な海ん底より地ん底より真っ暗な
無明にならしたつ
知っとるな
あん海の一番深かとこには大きか穴があっとよ
そらあ広くて深かったい
石炭ば掘っち坑道ば発破でつぶすどが
まるで泣きよらすごたる音ばたてて
海がしずんでいくと
おれが小さかとき親父ん船で上ばとおったったい
お日さんの加減できれいに下まで見えたばい
この世のものとは思えんほど深かった
嘘じゃなかよ
穴ん奥は暗かばってん
なんか誘いよらすごたるとたいな
こっちけ こっちけ言うて
とつけむにゃあ気色んわるうて
親父にはよう行かんなばて泣きつきよった
そっが最近よーく夢ばみっとよ
くるーくるまわりながら吸いこまれていくとたい
いろんな顔がでてくるばい
落盤で死んだつや争議で刺し殺されたやつ
爆発で顔も見わけがつかんごつ
真っ黒に爛れて死んだやつに
元ん組合でいっしょに闘こうたつもおる
どれも恨めしか目でじっーとおれば見よる
ある晩
目ばあくると海ん中におってな
地鳴りがしてくっとたい
泥や砂がゆっくり動いて
貝や石炭ばだれも見知らんとこに
こそっともっていきよるごたっとたい
ああおれもついに穴ん底にきたつばいね
観念せにゃならん
虹のごたるもようもちらついて
アサリやろかタイラギやろうか
黒光りして目ん中にはいってきちゃ
小そなったりふくらんだり息ばしよるごたる
ダバばはいた女ごん衆が
ぐるってそっばとりかこんで
腰ばかがめち手でかきあつめよる
ちょうど真上ば船もとおりよっとやろうかね
ぱたぱた音ばたてち
幟旗ば風になびかせよっとやろ
もしかすっと軍艦のごたる蒸気船とぶつかりおうて
鉢巻んほどけてしもとっとかもしれん
風が海鳴りんごつふいてきちゃ
耳ばゆすってものば言よるごたる
ばってんなんて言よるかいっちょんわからんたい
おれは海ん底でおかしゅうなって
一人でわろうとると
日本現代詩人会の第三十六期/2025年度1月~3月の詩投稿/橘麻巳子氏選・ 入選作