春べり            宮本誠一

 

一 蒸殺

 

羞恥染む葯袋

憐憫絡む柱頭

怨恨詰む子房

失念蹲む花軸

禁絶極む花柄

 

獰猛ひた隠しつ

皮相かつ姑息

道化扮すは

着ぐるみ

雑食獣

黙劇の果て

パントマイマー

蜜はこにありなしや

 

躍る間

異種胚珠はびこり

造花地下茎果て

すみずみへ

ポイズン

垂流

 

死差損益進捗

収奪占奪自棄繰り返し

炎上すメインオペレーション

抜け目なき根毛の氾濫

巨岩鎧う山中

砂礫に座し

こだます

水無の

羽音

 

六本の黒き鉄柱と白樹脂

光る小六塔の羽ばたき

天頂点司る蝶番

巨大六角

二角たりぬ

デル・モンテ城か

 

散在す

花柱残骸に告ぐ

振動治まらぬ六面六臂

空隙の実皮より

剥がせ

 

鼓動が

視界揺らし

やがて聞こえ来

空中回廊の羽音に

弄せらるる前

 

最初に倒れたのは水気のない乾いた石ころだらけの場所だったはずなのに 雨でも降ったのか辺りはしっとりと湿気が昇り 濡れて重たくなった服が股や背中にべったりまとわりついているようでした 水気を帯びた下草のようなものが生い茂り 体は他人のようによそよそしく 指先だけが麻痺してふるえるほか なにもできなかったのです そこへまたも雨粒のような しかしどこか粘着質のあるものが降り始め とろみをもった滴は耳や鼻から容赦なく流れこみ 内臓を押し潰していきました

 

瞑目

意識攪拌

ただ耐えるのみ

ああ世界が小さくなっていく

剥がれ落つ疼きとともに

肩甲骨に走る擦過辛苦

背中 肺腑 臀部

そうだ脳天股間

一直線刺貫く

枷杭またも

引抜かれ

摩擦熱

烈火

燃ゆ

 

慚愧極

全身蝕み

立ち昇る花蜜香

呼び覚まさる

クローバー

レンゲ

バジ

 

二 巣礎

 

ハニーフラワーサイド

潮引くこわばり

瓦礫残りし

刻文字

 

天然木

緑地野草

防塵シート

微細網目

六角

 

壁はどこも廊下を挟んだ二重構造です 内壁にも外壁と同じ位置に扉があり中へ入れます 天井はなく 六角形の空を遥かに仰ぎ見れる庭園になっています かなり大きな庭石や雑木が持ちこまれ 鬱蒼とした枝葉の間にこんもり盛り上がった丘も垣間見える広大な敷地です 全壁にメイプルシロップに似た赤味ががった粘っこい塗料で模様が描かれ 年輪を刻んだ木目や花の萼 昆虫翅の紋様が散りばめられ 眼奥に幽遠に映りこむと かつて生き物たちが飛びまわっていたであろう森の木立や苔むした岩々の表面に露をしたたらせ繁茂する葉叢や色とりどりの香り立つ花々の向こうへ誘い出してくれる気がしてくるのです

 

廊下接合小塔

吹抜け天窓

梁影褶曲

膨円

各部屋

窓正六面体

小扉開放

階段

外壁

徘徊すは

蔦のごとし

三女六角踊場立像

薄桃トレーナー白ベレー

ようこそハニカムへ

 

背中蠢

甘香

小塔一室ベッド

木彫椀唇押当てられ

喉もと流落果て

襲這上深眠

たちまち

陥落

 

三 出房

 

庭回帰

森奥正面

括れた巨石

羽巣父岩

爛れた

違和

激痛感

透明翅越し

あらわる小道

宝音ッ途の法網

 

木林

ササ藪

隧道ぬけ

香り漂う蜜

滔々と潤瀬音

水音ならぬ蜜音

よもやあらぬ

土濾怨の滝

天から地

否地から

天の力

竹筧

恭器うけ

躊躇なき太陽

六角空より降注

木立緑濃厚

乾地面

照射

 

もしも

蜜涸れどき

かそけき葉擦れ

やおら眠り覚まし

首もたげれば

一陣旋風

梢大揺

意識攪拌

陽あまねく

雲領されるや

ハニカム六角空

青域微塵無

雷鳴轟

 

滴落

息吹

大地

生命

 

脈動

土濾怨滝流下蜜

大息外気補

森と一体

萎熱気

ゼリー

 

四 記憶飛行

 

道行かな宝音ッ途

毛並覆ジッパーダンス

生殖器ありやなしや

やぼな繁殖

反生物

虐待

謳歌する

カーニバル

そうかそうだな

訪問者来なくとも

いずれ異形の自壊運命

筧濡れ干す蜜に白蝶一匹

エーテルのかなた

空間拡張

産卵必

緑葉求め

柔らかき太陽に

酔狂の花粉つけ柱頭へ

 

むず痒きか肩甲骨

鐡の孫手いずこ

振り翳したし

手摺番外地

悲鳴かき消ゆ

枝葉梢かき分く

空蝉浮身かき出す

朗らかハミング

たとどりつく

掘立て小屋

木漏日風に揺れ

赤茶屋根銀照らす

防水材の奈落底のみ

光吸こまるる魚影たち

真っすぐ泳ぎては揺曳遥か

 

咆哮

配電盤

褐色タンク

地下血路泡沫吹く

土濾怨の滝へダイブ

知らぬげな大鏡

ハンガー掛け

薄桃ベルト

翅数組合わせ

いづこからの使者

それとも天下る屍者

小枝交互囃し立つ浮揚

踏みしだく足音近接

息殺祈る姿勢

 

まいっちゃうわね いくらラブホテルだった頃のオープン記念品が残ってたからって こんな格好させるだなんて 一日つけてると肩が凝るんだよね だけどこの翅 意外と訪問や見舞い客には好評よ とくにスケベそうなおやじとか でも所長ってやっぱり変ね 面接もカーテン越しにメールだし 自分で立てないくらい太ってるって噂もあるけど だったらあのしょっちゅう逃げだすおじさん 意外と所長じゃ だって花にやたら詳しいし いつも探偵みたいにここのこと聞くじゃん きっとこの水の飲みすぎね 甘味ととろみつけてポンプから流してるだけなのに

 

五 無王群

 

胸もとせり上がりくるは嘔吐

噎せかえる咳咳喉いがらみ

絶叫悲鳴咆哮全ては虚し

頬を掠む湿風漣漣の波

唾液一滴一筋遂一落

誘う翻空旋風竜巻

眦を伝う涙痕跡

見上ぐ灰雲下

黒紫藻増

鉛錘子

大粒

 

憔悴消沈

過ぐ羽巣父岩

外縁の回柱廊牢

鉄扉向こうに六角塔

見覚えし三人筆頭

重々しき並列

同衣裳

笑顔

 

翅の微動

歯牙脱臼獣一頭

じっとこちら凝視

毛むくじゃらの両手

伸縮自由自在宙天へ翻す

背中引き攣りし疼痛

膚火照もどかしさ

突起物とも差異

大きく広し

浮揚感

さえ

 

偏執偏在偏狭

薄弾力透明

左右前後

送風

 

方や

ひりつく尾骨

そっと日の出のよう

戦々恐々

手回す

鋭利な細管

三たび臀部薄皮

破らんと突張り隆起

脳天から股間へ磔刺貫杭

 

驟雨じむ

今そのとき疎外いずこ

ハニカムの炸裂音内外満

じんわり体感微温上昇湿律

無数翅の擦り合わせ

粟たつ花粉団子

縦横三並び

小盾節

上舌中舌

更なる発熱

もしやと増す単眼

あっかんべー

土濾怨の蜜

香ばしき

アロマ

聾す

一斉粘着

すべてのまま

洗流洗礫

砂粒滞

花粉