無言叫           宮本誠一        

 

深夜の受話器の咆哮が

たちまちあたりを噎せ返らせると

撥上がる息が念と念の隙間に楔を打込み

言葉にならぬ言葉をメロディーで繋いでいた

突然鳴りだしたブルース

セント・ジェームスの箴言よ

 

就寝してすぐだった

聞き覚えある職員の凍てついた報せは

蠟に彫られし影 聞こえぬ鼾 止まった心臓

顫える波打際で櫂を漕ぐマッサージの連続

 

車窓の闇を透かしやつが浮かんでは消え

トウチカのような漆黒の入口に佇む執行人が

地下壕へ誘う常夜灯を瞬かせては苦悶を導き

施設二階からの翔舞より過日半年

腰椎粉砕の砂塵を烙印した

固陋な海馬の餌づけの証左を皮肉った

押寄せる間欠アラームと点滅波が残響を掬う

胸までシーツに包まれた無言の膨らみ

名を名を そうだ 耳元にやつを吹きかける

 

頑なに閉じた瞳は粗悪な焦点を曇らせ

濁ったマスクからは自傷でねじ曲った前歯が

黄土のような渇風を吐いては見開いている

どこまでも遥か足元に近づくことを拒み

生贄の唾液を狙い飛ばしてきた唇に

まやかしはない

 

そうか そうなんだ

行き場をなくし彷徨い歩いた迷い子

溺れかかった羊の顔で襟首をつかんできた

やつはもうここにいない

なんということだろう

 

 

喪失と消滅に安堵する自分がいるとは

すべての厚い壁が今天蓋に亡骸を飼い慣らし

空々しい虚妄の呪文へと溶けていく

 

鉄のスライドは採炭車のような重みを要し

灼熱の氷の遺骨を引きずりやってきた

 

ついさっきだ

発火ボタンに手をふれたとたん

灰白色の緞帳がまるで天地が裏返ったように

どすんと脳天から突上がり落ちてくるので

そのあまりの憮然さに底がぬけたように

しゃがみこんでしまったのは

 

均されてしまった廃墟に

一組だけ取り残されたチタンの筋交が

一点だけを頼りに互いに支点の噛合わぬまま

ゆうらり黄金のロートスをぶらつきながら

澱んだ促音韻律を未来永劫うたっていた

セント・ジェームスからレッドクロスへ

屍の延焼をつづけつ

 

名は 名は

そうさ 今度こそやつの名を

ぼくは一生わすれない