過疎地の出来事        宮本誠一

 

チャイムは6:30きっちり
背中を半回転
膝立て
左右へ数回
反動つけ
上半身から

窓に張りついた
遠景の
電球のようなヘッドライト

手元にたぐりよせた
セーターにズボン
風通しのよくない
黄色の
ナイロンベスト
胸には桜の花びらと校名

見守りの場所へ

社には三体の地蔵
混ざり合う三叉路

翻る
横断の旗
手前に少し出して
足音を待つ

吹きさらされた
路地に
人気はなく
あるのは静寂のみ

少し遅れて来る
隣地区にも
気配はない

どうしたのか
今日にかぎって
携帯を忘れてしまった

家々に声かけしてみようか
迷いの生じる間に
いつのまにか
うっすら霧がかかり
側溝に溜まった枯葉も
家屋も
瓦も
見えない

音もなく
人もなく

もしかして
私ひとり残し

立ち去ってしまったのか

だれもこぬ
三叉路で
一人
待っている