「共」に「生」きる。 in 阿蘇

『海神』・その4

 敏雄と律子が二人で生活し始めたとき、律子の腹の子は六か月目に入っていた。小太りの管理人が、訝しそうにその辺りに視線を落としうろんげな目付きを送っていたのを思い出す。  律子はよく、自分から話を余りしたくないとき敏雄が何 […]

『海神』・その5

「敏雄もしょうもなかね。時化で船だされんごつなるとまたパチンコ屋行ったたい。台風んこようがパチンコ屋だけはよう繁盛しよるごたる。役場ん前にも一つできたげなばってん、役所んもんも、昼休みんときから行きよるげなけん。ほんなこ […]

海神・その6

 敏雄は、頂度良い酔い醒ましとばかりにママが制止するのも聞かず車にどっかと乗ると、アクセルを吹かした。  風が熱を持った頬をなぶり、躰を弄ぶように包み込んだ。やがてどこぞの父親になる男の躰だった。風は覆うかと思えば、また […]

『塔』・その1

            塔  人が倒れていた。何人も多くが、埃をかぶったような服を着て、それは一針一針縫い目はしっかりしているのだが、よく見るとその一本一本に擦り合ったような解きが見られる。しかし、全体のステッチとしては […]

『塔』・その2

             春  路地苺は、見事なコラージュを地面との色彩の対称性の中に描き出していた。苺は、上空から見るとまるで点描されたスケッチ画の挿絵のようで、真っ赤な表面は、一粒一粒は肉眼では識別できず、もちろん区 […]