「共」に「生」きる。 in 阿蘇

『海神』・その1

             海 神
 敏雄は、操舵を片手で操りながら、節くれ立った指先に力を入れ、握り手で巻き上げるようにスロットルを絞り込み速度が張詰って噴き出してくると、船の舳先にぶつかり二手に割れていく波の音と女た …

『海神』・その2

 敏雄たちが博多で荷を下ろし戻ってきたのは、夜の十一時を少し回っていた。英治を家までトラックで送った後、敏雄は孝造の事務所にそれを置き自分の車に乗換え、アパートに帰ってきた。アパートは、かつて炭鉱町として賑わった市街か …

『海神』・その3

 舳先は、正面から吹く風を切っては上空へ推し上げるようにしながら進んでいった。風は生き物のように二手に分かれ霧のように湧き上がり、各々の顔をなぶりながらまた船尾を過ぎると離れた躯を結び合わせていく。時々海に浮かぶ浮游物 …

『海神』・その4

 敏雄と律子が二人で生活し始めたとき、律子の腹の子は六か月目に入っていた。小太りの管理人が、訝しそうにその辺りに視線を落としうろんげな目付きを送っていたのを思い出す。
 律子はよく、自分から話を余りしたくないとき敏雄が …

『海神』・その5

「敏雄もしょうもなかね。時化で船だされんごつなるとまたパチンコ屋行ったたい。台風んこようがパチンコ屋だけはよう繁盛しよるごたる。役場ん前にも一つできたげなばってん、役所んもんも、昼休みんときから行きよるげなけん。ほんな …

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