「共」に「生」きる。 in 阿蘇

『缶詰屋』その九

 「人は、どこかで生きていくもんですよ」  佐伯は、別れぎわ缶詰屋が言ったその言葉が気になった。どうにか生きていくでなく、どこかで生きていく、その意味がどうしてもよくのみこめない。  「だれでも、死にたくないんじゃないん […]

『缶詰屋』その十

   缶詰屋では、いよいよ店舗も完成し、細かな荷物の整理を男がひとりでやっていた。  「引っ越しはだれも手伝ってはくれませんから」  缶詰屋は、そう言って、黙々と手をうごかしていた。しばらくしてから、扉が開き、手にいっぱ […]

『缶詰屋』その十一

   次の日の晩、佐伯は家にかえってから妻に、退職願いのうすっぺらい紙を見せた。  「これをだすつもりだ」  何度も話しあいはしてきたはずだった。そのたびに、冷静にきいていた妻もついにはヒステリックになり、ちょっとした言 […]

『缶詰屋』その十二

 「ああ、そうですか。やめられますか」  缶詰屋は、佐伯に一言だけそうつぶやいた。  退職願いを出した次の日のことだ。 これから事務的手つづきが、きまった段取りですすめられ、終わっていく。無駄なくつくられた規約にそい、間 […]

『缶詰屋』その十三

 やがて一か月後、退職辞令の交付式が、予定どおり会社の一番広い研修室で行われた。   十五名の退職者がいた。一枚のプリントがそこにはおいてあり、それぞれの勤続年数と最後にいた部署が書かれてあった。佐伯の年齢で辞める人間は […]