二つ目の倉庫を歩き始めたとき、彼の方へ、一つの影が近づいてきた。その影は、よく見ると、彼に手を振っているのだった。彼は、しばらくその影を目で追った。影は近づくにしたがい、彼に見覚えのある顔形になっていった。男だった。畑 […]
○月○日木曜 昨日、一日帰らなかった息子を私は捜しにいった。これまで帰らないにしても、せいぜい日が暮れるまでには姿を見せていた息子が、初めて一日どこかへ消えてしまった。私は、知らぬうちに安堵感を覚えていた。これでしば […]
倉庫・その2 彼は、静かにノートを閉じ、またさっきとは逆にそれをリュックに入れ、歩き始めた。一つ目の倉庫では、タケダが、自分の妻の声を聞き、二つ目の倉庫ではその息子が憑かれたように立っている情景 […]
「たしかに、ぼくは、お母さんがいなくなってから言葉を話さなくなってきたよ。学校へ行ってもだれ一人、先生とも友達とも話さないし、家では父さんとも話さなかった。でも、そのうち少しずつ回復はしてきたんだ。そんなとき、父さんが […]
彼が、宿に着いたとき、既に時間は昼を過ぎていた。 主人は、彼よりもはるかに大柄で、思いの他、色白の男だった。 白い肌から血管が透き通るというほどではないのだが、それに近い皮膚の薄さを感じさせた。躰のわりに肉は柔らかそう […]