「共」に「生」きる。 in 阿蘇

解放出版社の尾上さんより、以下のメールを頂きました。できるだけ多くの人に読んでほしいとの趣旨ですので掲載します。

皆様へ

解放出版社の尾上です。
今回(第37回)の部落解放文学賞の詩部門の入選作「コンピューター」の作者で
ある、くるみざわしんさん(精神科医)から以下のメールが届きました。
多くの方に知らせたいとのくるみざわさんの意向により転送いたします。

————————————–
 尾上年秀(ONOE Toshihide)
 解放出版社編集部
 552-0001 大阪市港区波除4-1-37 HRCビル3F
 TEL 06-6581-8653(編集) 06-6581-8542(代表)
 FAX 06-6581-8552
 
onoe@kaihou-s.com
 ————————————–

Forwarded by 解放出版社 尾上年秀 <onoe@kaihou-s.com>
———————– Original Message ———————–

尾上さま

今回はお願いがあってメールを差し上げました。

原発問題には以前から関心があり、今回の福島原発の事故も気が気ではなく、事
態の展開を見守っていましたのですが、最近になり、精神科医としても黙ってい
られない状況となり、以下のようなメールを友人の精神科医たちに送っています。

ひとでも多くの方にこのことを知っていただきたいと思いますので、部落解放文
学賞に関係する方々にこのメールを転送するなどして、お知らせしていただけま
せんでしょうか。
よろしくお願いします。

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文科省が教育関係者に向けて「放射能を正しく理解するために」という文書を4
月20日に発表しています。
精神科領域に関係することが書いてあるとのことでしたので、目を通してみたの
ですが、なんてことだと頭を抱えてしまいました。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detai l/__icsFiles/afieldfile/2011/04/21/1305089_2.pdf

前半は、あの「年間20mSVまでは安全」というとんでもない基準について述べら
れていて、これだけでもかなり不愉快なのですが、我々精神科医に直接関係して
くるのは後半です。
12ページの一番下に「放射線の影響そのものよりも、『放射能を受けた』という
不安を抱き続ける心理的ストレスのほうが大きいと言われています」と書き、1
3ページ以降にその説明として、心理的な強いストレスの受けたときの子供の反
応を解説し、「PTSD」について述べ、「放射能のことを必要以上に心配しすぎて
しまうとかえって心身の不調を起こします」と結論付けて、「からだと心を守る
ために正しい知識で不安を解消!」と結んでいます。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は過去の心的外傷が原因で発症しますから、現
在進行形の事態に対してPTSDを持ち出すことはそもそもおかしな話です。
また、あたかも「放射能を心配しすぎて」PTSDになるかのような説明は間違って
います。
「心配しすぎて」PTSDになったりすることはありません。 PTSDはレイプ、虐待、
戦争体験、交通事故などなど、生命が危険にさらされる現実の出来事の後に生じ
る疾患です。

今、原発被害に関してPTSDを論じるのであれば、PTSDの予防ですから、「安全な
場所に避難すること」と「事実を伝えること」が必要です。
ところが文科省のこの文書は「年間20mSVでも安全という間違った情報」を与え、
「避難の必要はない」と言っていますから、PTSDの予防としても間違っています。
そもそも放射線の被曝による生命の危機を認めていません。
あまりのお粗末さにあきれてしまい、開いた口がふさがりません。

福島原発の事故の責任は国にあります。
この文章は加害者である国が、被害者の口を封じ、あたかも被害の責任が被害者
側にあるかのような論述を組み立てています。
これは、レイプでも幼児虐待でも加害者側がよくやるやり方です。
このやり方を繰り返されているうちに、被害者は被害を受けたという事実が見え
なくなり、自分を責め、PTSDであることすらわからなくなってしまいます。
PTSDという疾患概念は、被害者が自分の症状と過去の出来事との関連に気づくた
めのものです。
それを被害者の口封じのために利用していることに腹立ちを感じます。

こんな内容の文書を信じる人はいないだろうと思っていたのですが、先週末に福
島出身の作業療法士さんと話をしたら、「そんなことありませんよ。信じてしま
います。肩書のある偉い先生や、政府の人が言ったら、一般の人はそうかなって
信じてしまいますよ。福島は混乱しています」と言っていました。事態は切迫し
ていて、黙っていたら加害者側に立つのと同じになってしまいます。

時間も気力も限られていますので、まずは伝わりそうな人に伝えています。
この文書の作成に協力している小児心身医学会とメールのやり取りをしているの
ですが、なかなか動こうとしません。

トラウマティックストレス学会には原発事故の際の心のケアについてちゃんとし
た文章が載っていました。
http://www.jstss.org/pdf/konishi0324.pdf

福島の皆さんにこのことを知らせたいと思っています。
文科省に文書を撤回させることはできなくても、知識を広めることで文書を無効
化してしまえたらと思います。
転送等していただけたらありがたいです。

チェルノブイリの事故の後、心身の不調を訴える人々に対してソ連が「放射能恐
怖症」という精神科的な病名をつけて、放射線被曝の後遺症を認めようとしなか
ったことがありました。
それと同じことが日本でも起こるのではないかと心配しています。

放射線被曝の被害を矮小化しようとする国の態度は正さなければなりませんし、
そのために精神医学が利用されることを防ぎたいと思っています。
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——————— Original Message Ends ——————–

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